2021年6月8日、米バイオジェンとエーザイが共同開発したアルツハイマー病治療薬「アデュカヌマブ」が米国食品医薬品局(FDA)に新薬承認されました。
これを受けてエーザイの株価はストップ高。
アルツハイマー薬に対する期待の大きさがよくわかります。
この記事では、アデュカヌマブが日本で承認されたらいくらで販売されるか、なぜ効くのかについて取り上げます。
アデュカヌマブが日本で承認された場合の値段
アデュカヌマブの日本での現状
アデュカヌマブは2020年12月10日に厚生労働省へ新薬承認を申請され、現在審査中です。
参考 アデュカヌマブ、日本において新薬承認を申請エーザイホームページヨーロッパでも2020年10月21日に販売申請されています。
参考 アデュカヌマブの欧州医薬品庁への販売承認申請の提出についてエーザイホームページアデュカヌマブの値段
米国での卸売販売価格は月1回投与で4312ドル(約47万円)、年間では約5万6000ドル(約610万円)です。めちゃくちゃ高価です。
この価格にさらに卸業者や医療機関の利益が上乗せされて販売されます。
仮に日本で承認が得られた場合、高額療養費制度の対象になる可能性は非常に高いと思われます。
この価格で日本でも販売されて、日本の国民健康保険、高額療養費制度を活用した場合いくらになるのか計算しました。
中間の薬卸業者、及び病院の利益は除外して考えています。
結果は以下の通りです。
患者の年齢 | 1カ月あたりの自己負担分 |
70歳未満 | 約82000円 *4か月目以降一律44000円 |
70~75歳 | 約57600円 *4か月目以降一律44000円 |
75歳以上 | 18,000円 |
*計算方法 高額療養費の自己負担限度額 – 医療保険の選び方
世帯の所得区分を一般として計算。(高所得者だとさらに高くなる可能性があります)
一般所得者は70歳未満だと年収約370万円から770万円の人
70歳以上75歳未満だと年収約156万円から370万円の人を指します。
年間に何度も高額療養費制度を活用する方向けに4か月目以降は自己負担率が少なくなる制度があります。そのため4か月目以降は一律44000円になるようです。
参考:厚生労働省保険局資料~高額療養費制度を利用される皆さまへ~
元々の薬の値段はかなり高いですが、高額療養費制度を活用すれば何とか手が届くかも知れませんね。
アデュカヌマブはどのように作用するのか
そもそも治験での効果は?
臨床試験の効果から評価するにアルツハイマー病を改善するのではなく、進行を抑制するというのが妥当です。
以下の図はアデュカヌマブの臨床試験の結果の一部です。EMERGEとENGAGEはそれぞれ行った臨床試験の名前です。
縦軸のCDR-SBは「認知機能と日常生活の両面から認知症の重症度を全般的に表す指標」です。
引用:エーザイ 2019年度 第2四半期 決算説明会資料より
どちらの臨床試験でもアデュカヌマブを投与することで認知症の進行はプラセボ(偽薬投与群)に比べて抑制されていますが、それでも試験開始時よりも悪化していることがわかります。
あくまでも認知症を改善する薬ではなく、進行を抑制する薬なようです。
アデュカヌマブはどのように作用するか
アデュカヌマブは抗体医薬品です。
抗体とは特定の物質にくっつくタンパク質です。
アルツハイマーになると脳内にアミロイドβという成分が蓄積することが知られていて、アミロイドβによって神経細胞が死ぬと考えられています。
このアミロイドβをアデュカヌマブが認識して結合し、おそらく分解を誘導することで、患者のアミロイドβ量を減少させます。
このアイディア自体は特に新しいものではありませんが、おそらく副作用がなく、かつ脳内に届く抗体の作出が困難だったのだと思われます。
基本的に脳内に抗体を入れるには特殊な処理が必要です。
現在開発されているアルツハイマー病治療薬は基本的にアミロイドβに対する抗体医薬品が主流なようです。
効果については科学雑誌も懐疑的
科学雑誌のNature、Science両紙もあまり肯定的でない記事を投稿しています。
Nature:Landmark Alzheimer’s drug approval confounds research community
(画期的なアルツハイマー新薬の承認により、研究業界は混乱している。)
Science:Alzheimer’s drug approved despite doubts about effectiveness
(効果に疑問が持たれているにも関わらず、アルツハイマー新薬が承認された。)
治験のデータの取り方が業界的に疑問視されているようです。
アデュカヌマブについて調べて思ったこと
エーザイが「アルツハイマー病の病理に作用する初めてかつ唯一の治療薬」の開発に成功しましたが、
・アルツハイマー病の改善ではなく進行抑制である点
・他社も追随して第3層試験まで治験を進めている点
などを踏まえると、
という気もします。
今回の迅速承認は、あくまで市場に早く出して、実際の患者での治療成績で効果を見極めようという趣旨で下されています。
もちろんほかのP3層の治験薬が失敗するごとにアデュカヌマブへの期待は高まるのかも知れませんが、競合する薬ができるのも時間の問題かもしれません。
何にしても、RNAワクチンといい今回のアルツハイマー進行抑制薬といい、最近の製薬業界はアツいですね!!
今回もお読みいただきありがとうございました!
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