2021年4月1日のCell誌にこのようなprespective(展望)が掲載されていましたので紹介します。
The next horizon in precision oncology: Proteogenomics to inform cancer diagnosis and treatment
精密腫瘍学の新たな地平~がん診断とがん治療のためのプロテオゲノミクス~
プロテオゲノミクスとは、プロテオミクス(タンパク質の網羅的解析)とゲノミクス(遺伝子の網羅的解析)を組み合わせた研究領域です。
このYoutube動画が非常にわかりやすく、かつ日本語字幕付きですので是非ご覧になってください。
こんなにわかりやすくて面白いのに現在389再生とは・・・
プロテオミクス(タンパク質の網羅的解析) +
ゲノミクス(遺伝子の網羅的解析)
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プロテオゲノミクス
*この展望では、ゲノミクスはエピゲノミクス、トランスクリプトミクスを包括する単語として使用されています。
エピゲノムについては過去記事:妊娠中の環境が子供の生活習慣病リスクに影響を与える? コロナ禍に生まれた子供への影響は?
これまでのゲノミクスで「がん」の何がわかったか
・同じがんの種類(例えば大腸がん)であっても、まったく同じがんというのは存在しない(不均一性)。そのため、高い治療効果を得るためには患者個人個人のがんを精密に知る必要がある。
この知見を受け、アメリカ国立衛生研究所(NIH)ではThe Cancer Genome Atlas (TCGA)へ投資を開始しました。
現在TCGAにはがんのサンプルが33種類、約11000検体程あるそうです。
これらのサンプルを解析し、一口に胃がんと言っても4種類のサブタイプがあることがわかりました。この4種類のサブタイプ毎に効果の強い治療法は異なることもわかっており、適切な治療方法の選択につながります。
プロテオミクスを組み合わせる理由は?
がんを促進しているDNAの変異が同定されたとしても、それに対応できる薬があるとは限らないというのが一因です。
プロテオミクスを行うことで、タンパク質量の変化や、タンパク質の修飾の変化なども評価でき、異なる見地から治療法を提案することができます。
細胞増殖経路の活性化や、細胞増殖抑制経路の低下などは、それらに関わるタンパク質量の活性により推定できるため、どの細胞シグナルが動いているのかも推定できます。
川上だけでなく川下も両方抑えるといった感じですね。
CPTACによるゲノミクスとプロテオミクスの融合
Cancer Institute’s Clinical Proteomic Tumor Analysis Consortium(CPTAC)というNIHの部門では、プロテオゲノミクスの解析が進められております。
CPTACにより、ゲノミクスとプロテオミクスの境界部の知見が埋められており、ゲノミクス単体だけでは分かりえなかったがん細胞の状態が明らかになってきているようです。
今後10年もプロテオゲノミクスの進展で、新しい治療法が開発されていくと期待されます。
今回もお読みいただきありがとうございました!