個人的に非常に大好きな研究です!!
この分野の第一人者は東京医科大学の落谷 孝広 教授
落谷先生の研究チームは「癌細胞が放出する細胞外小胞」を研究されています。
2013年のノーベル医学生理学賞は「主要な細胞内輸送システムである小胞輸送の制御の発見」に対して与えられました。
今回お話しする細胞外小胞と非常に近い分野です。
細胞外小胞とは?
細胞は、自分の中に含まれている細胞質を細胞膜に閉じ込めて”ポコン”と細胞の外に放出します。
これが細胞外小胞(小さい粒)です。
この細胞外小胞は、血液などの体液に乗ってほかの組織に運ばれて、たどり着いた細胞に取り込まれます。
このように、離れた細胞間が小胞を使ってやりとりをしています。
「筋肉さん」から「大脳新皮質さん」へお届け物です
細胞外小胞にはなにが入っているか
タンパク質や、mRNA、miRNAなどが含まれているといわれています。
タンパク質はもちろん、mRNA、miRNAなどが受け取り側の細胞に入ると、受け取り側の細胞の遺伝子発現に影響を与えます。
このように、遠く離れた細胞同士が「このタンパク質あげるわー」とか、「このタンパク質作ってくれー」、「そのタンパク質ちょっと作るの減らしてくれー」といったコミュニケーションを行っています。
ちなみにこの細胞外小胞へのパッケージングなんですが、単純に細胞質の一部を切り出して放出しているわけではなくて、「このタンパク質詰めてやろう」とか、「これ送るのはやめておこう」みたいな選択をしているようです。細胞賢すぎでしょ笑
筋肉さんまたプロテインばかり送りつけてくる・・・
*本来は受け取り手に必要なものを送っている場合が多いと思います笑
癌細胞が送り付ける爆弾とは?
癌細胞では、この細胞外小胞の分泌量が増加している場合が多いと言われています。
癌細胞はこの細胞外小胞を巧みに利用し、自分の成長や転移を有利に進めているという研究が多く報告されています。
落谷先生の研究で、乳がん細胞が作る細胞外小胞には脳のバリア機能を低下させるmiRNAが含まれており、それによって脳転移が起こりやすくなるという研究結果が示されていました。
他の研究者からも「細胞外小胞が癌の転移先を決定しているんじゃない?」という論文が出されています。
論文タイトル:Tumour exosome integrins determine organotropic metastasis
挙句の果てには癌細胞の細胞外小胞を受け取った細胞が癌化するという報告もあります。
論文タイトル:Cancer Exosomes Perform Cell-Independent MicroRNA Biogenesis and Promote Tumorigenesis
「お前も癌にならないか?」状態です。まさに鬼。
細胞外小胞の将来的活用例~診断・治療方法としての可能性~
癌細胞が細胞外小胞を多く出すということは、血液中の細胞外小胞を検査することで診断に活用できると考えられます。
実際に落谷先生はテオリアサイエンス株式会社というバイオベンチャーを立ち上げ、すい臓がんの検査キットを作っています。
また、細胞外小胞の放出を止めてやることで癌の悪性化が防げるのではないかと研究もされているようです。
細胞外小胞の将来的活用例~医薬品への転用としての可能性~
細胞から放出される細胞外小胞は、受け取る細胞を選んでいると考えられています。
よく考えるととても理に適っていて、脳に送ったつもりが骨で受け取られてしまうと情報のやりとりが混乱してしまいますよね。
筋肉さんから変なの送られてきたんだけど・・・
この受け取る細胞を選択できる能力を利用して、DDS(ドラッグデリバリーシステム)へ転用できるのではないかと考えられています。
皆さん抗がん剤を使うと髪の毛が抜けるイメージありませんか?
あれは、増殖が活発な場所に抗癌剤が取り込まれるように作られているため、癌以外にも毛根へ抗がん剤が行ってしまい、毛が抜けてしまうというのが理由です。
もし、癌細胞にだけ抗癌剤が届くようにできれば、抜け毛などの副作用がない薬ができます。
非常に将来性が楽しみな研究領域です。
細胞外小胞はパンドラの箱
落谷先生は細胞外小胞を「パンドラの箱」と表現しました。
非常にうまい表現だと思います。
ギリシャ神話のパンドラの箱の中には疫病、災害や貧困などの災厄が入っており、それらとともに希望が入っていたといいます。
癌細胞の悪知恵を解明し、それを予防、あるいは活用できれば、まさに希望ですね。
今後の展開が楽しみです!!
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Podcast:https://anchor.fm/13381/episodes/3-et2igr